興味を持たせる話術

高校1年生の時に古典の授業で、紫式部の源氏物語に触れる機会があった。

しかしながら、バンカラ学生であった私は、そんな雅な世界の物語には興味が持てず、スグに耳に蓋をしてしまった。

授業で頭に入ったのは「紫式部は源氏物語を書いた人」という1行の情報だけで、源氏物語の内容も、何を教わったのかも、記憶にない。

そしてそこから2年が経過して、今度は高校3年生になって「地学の授業」で再び源氏物語に触れることになった。

この授業を持たれていたのは、四国の理系の大学を出られたTという男性の先生であった。

私の目からは「ザ・研究者」という言葉がピッタリの少し神経質そうに見える先生だったと記憶している。

当時、低気圧や高気圧・偏西風・気圧配置などの単語の説明に始まり天気図の見方を先生は解説されていたが、私は椅子の背もたれに背中をあずけながら、ぼんやりと聞き流していたように思う。

その授業の半ば、

「君たちが1年生で習った源氏物語を読むと、紫式部は気象学者だったことが見えて来る。」と先生がおっしゃられた。

(紫式部が気象学者???なんでや?)

思いがけない言葉に疑問を持ち、そして興味を惹かれた私は、思わず身を乗り出した。

「ザ・研究者」風の理系の先生から紫式部の話が出るアンバランスさも面白くて、皆が先生の話に意識を引かれたようだった。

そのタイミングで、T先生は事前に用意していたプリントを皆に配布してくださった。

そこには、源氏物語の気象について書かれてある部分を幾つか抜き取って箇条書きにしてあった。

当時の事なので完璧には思い出せないが、「春霞、春雨、夕立、秋しぐれ、野分、・・・・」など様々な気象と、気象について書かれた文章を太字にしたものが挙げられていた。

そしてT先生は、「源氏物語に書かれている気象に関する文章は、とても正確で、時系列で読み解けば、その期間の天気図さえ推測することが出来る。

たとえば台風が出てくる章があるが、書かれている文章から台風の特徴や進路まで分かる。」

というような事をおっしゃっていた。

私は知らず知らずのうちに、熱心に耳を傾けていた。

「紫式部」にも「天気図」にも私は興味が持てず聞き流していたが、「紫式部は気象学者」という意外性のあるキャッチフレーズ(掴み)に疑問を持ち、そして意識が引き付けられた。

人と異なる着眼点から話を展開させて行った この時の地学の授業への驚きは、少なからず私に影響を与えた。

経営者になった今でも、社員教育を実施するときに、よくこの手法を使っている。

先日も、車で九州に2日間出張する社員に「安全運転を心がけて下さい」では右から左で意識に留まらないだろうと思い、「虹と安全運転とは同じである」という話をして送り出した。

紙面の都合もあるので内容については皆様の推測にお任せしたい。