先般、当社の女子社員が翡翠(ヒスイ)を拾った。
見ると、指輪の土台から外れて落ちた翡翠であろうと思われた。
落ちていた場所は、当社のシニア事業部が入るビルの駐車場とのことであった。
同じビルの中には当社のリラグゼーション事業部(エステサロン)も入っているし、他社の福祉事業所や整骨院、高齢者の集うカラオケサロンなども入っていて、落とし主は、きっとこのビルを利用している高齢者の女性だろうと思い、「拾得物のお知らせ」のチラシを写真付きで作った。
そして暫くの間、ビルの玄関にチラシを張り出すと共に、コピーをビル内の全店にお配りした。
なぜ?すぐに届けずに暫くお預かりすることにしたのかというと、泉南市には警察署が無く、隣町の阪南市にある泉南警察署まで高齢の方が取りに行くのは大変だと考えたからである。
しかし結果として落とし主からの連絡は無かったので、結局は警察署に届け出た。
このことがあって、実は子供の頃のある出来事を思い出した。
確か小学2~3年生の冬の夕方だったと思う。
近所の駄菓子屋さんに行った帰り道に家路を急いでいると、木枯らしに吹かれて何か丸まった紙のようなものが偶然、私の足元に転がってきた。
40年以上前の当時は道路も今ほど舗装も清掃もされておらず、一歩、路地裏へ入ればゴミが結構散らばっていた。そのため普段なら砂煙にまみれた紙クズなど気にも留めなかったと思うのだが、この時はなぜか気になった。
足元の丸まった紙をよく見てみると、それは千円札のようであった。
すぐさま拾い上げて確認し、本物だと分かると丁寧に折り畳み、ポケットの奥にしまい込んで、家へと走って帰った。
珍しく在宅していた父に
「千円札ひろったで!暫くの間は、おこずかいに困らんわ!」と得意満面で千円札を広げて見せた。
すると父は
「今日のお前は凄く運が良い日やな!良かったな!」
と言いながら、おもむろに自らの財布を取り出し、千円札を1枚引き抜いた。そして
「この千円札をお前にやるから、その拾った千円札は明日になったら交番に届けりや」と言った。
子どもの私にとって、父の言うことは絶対であったので、言われた通りに翌日、交番に届け出た訳である。拾得物預り書を警察から貰って、それを父に見せると、今度は
「半年たったら貰えるぞ。そしたらその千円札はお前のもんや。そしたら昨日渡した千円は返してや!」と言われた。
なんかややこしいな!と思ったが頷いた。
その後、半年経ってもう拾ったことさえ忘れかけてしまっていたころ、警察から引き取りのハガキが私宛に届いた。
翌日、父と共に警察署に千円札を受け取りに行った。
私が署員の方から千円札を受け取り父に渡すと、また父はおもむろに自分の財布から、もう1枚千円札を出して合計2枚で2千円にして、署員の方に
「赤十字か福祉か、何かに役立ててください」と言って差し出したのである。
子の前で良いところを見せようとする父の気持ちを察して、署員の方は私に向かって大層父を称えてくれ、私は素直に誇らしい気持ちになった。
実はこの話には後日談があって、大人になってから父とこの時の出来事を改めて話すと
「あれは俺が子どもの時に大人がやってるのを見て、俺も大人になったらいつかやってやろうと思ってたんや」
という事であった。 笑