攻撃と防御

先般9月に「17回アジア競技大会 柔道競技」が韓国で開催された。

有り難いことにその試合中継を、東建多度カントリークラブ・名古屋にて、各地のトップクラスの柔道関係者の方々と観戦させて頂いた。

その観戦後に、東建コーポレーション㈱ 代表取締役 左右田鑑穂社長(6段)主催の食事会があり、その際に左右田社長が「試合において、攻撃は緻密な計算と戦略であり、防御は経験に裏打ちされた本能に基づくものである。」といった趣旨の御発言をされると、他の出席者からも、賛同する意見が相次いだ。

 

攻撃についていえば、試合前に対戦相手を徹底的にリサーチすることから始める。

リサーチ内容は、まずは相手の得意技と弱点の精査であるが、それ以外の重要なリサーチすべき点を上げると、相手の性格、試合での時間配分の特性(集中して技を繰り出してくる時系列ポイントの精査)、筋肉疲労度の経過とその特性(どのあたりの時間帯から筋肉疲労でパワーが落ち始めるか)、無意識での体幹反応の特性(組手と体捌きでの癖)、技の種類や特性(どの方向やどんな態勢からの技か)と仕掛けてくるタイミングの頻度と特性(どのような連絡変化ののち得意技を出してくるか?)、練習状況(スタミナはあるのか?)、顔色や体調(当日の健康状態)はては柔道着のサイズ(袖口は取りやすいか?)、着用の仕方(技を掛けた時に脱げやすくないか?)、帯の結び位置(位置により脇口を掴みにくくならないか?)や結びの強さ(帯を掴んだ時にほどけやすくないか?)までもリサーチして分析する。

そしてその上で初めて攻撃の戦略を立てるのである。

 

防御については、相手が次に何を仕掛けてくるか分からないし、頭で考えるより体で反応する反射的な事なので、経験(練習に次ぐ練習)に裏打ちされた本能で対応するしか術がないであろう。

たとえば優勝候補の一流選手が実力差のある格下の選手相手に、簡単に投げられて一本負けしたりする例を見受ける。格下相手に番狂わせをちらほら起こす一流選手は、短期間で一流選手の位置に駆け上がって来た選手が多く、決まって柔道の開始年齢が遅いのである。つまり、攻撃力は高いのだが、経験値が低いぶん、本能で反応する「防御」が弱い典型的な例である。

 

それと一つ、忘れてはならない重要なことがある。

得意技を掛けるその瞬間は、得意技であるがゆえに気が大きくなって防御については失念してしまう。相手を仕留めることだけに全神経が集中してしまう。そこに最大の隙が生まれる。

逆方向から考えると、わざと相手が得意技を掛けて来やすい隙と間合いを作り、相手に得意技を掛けさすことにより隙を作らせ、そこを狙って仕留めることが来る。

リサーチで相手の得意技を知っておけば、得意技こそ想定の範囲内の技という事になり、逆に大きなチャンスを呼び込めることが出来る。

これも戦略の一つである。

 

たった数分間の短い試合時間に対して、どれだけ丁寧にリサーチをし、どれだけ綿密な戦略を立てられるが、勝敗を左右するのである。


柔道における「事前リサーチ→戦略→実行力→結果」のプロセスは、人生の縮図であり、私にとっては企業経営の戦略を立てる上においても、参考になることが多数散りばめられているように思うのである。