中国製品への疑心と低価格競争

我が国は長らく続いた鎖国が終焉を告げた明治時代以降、石油などの原料を輸入し、それらを品質管理の行き届いた安全安心な製品にして世界に送り出すことで、技術立国として国の活路を見出し、今日まで歩んで来た歴史がある。

しかしである。グローバル化と一言で言ってしまえば簡単であるが、近年おいてはコストばかりに囚われることにより日本の活路である加工技術を我が国は忘れてしまい、原料のみならず、製品そのものを輸入することによりコストダウンを図り、市場は低価格競争になっているのが現状である。

 

なかでも中国製品が巷にウンザリするほど氾濫している。

7月には某外食産業M社関連で、品質保持期限の切れた鶏肉を使用してナゲットを製造していたことが判明し、かなりの衝撃が世界中に走った。

我々の業界でも、中国製ポリエステル繊維製品において、使用済みのレントゲンフィルム(ポリエステルに銀の被膜を塗ったもの)が材料として使用されていたことが原因で、製品から放射能が検出されたり、また染色工程での洗浄の不備から残留ホルムアルデヒド(発がん性物質)が検出され、オーストラリアでは中国製繊維製品の政府回収命令まで出されたりする始末である。

このような事例は加工食品・繊維製品だけに限らず、過去にも多くの報道等にあるように、それこそ枚挙にいとまがないのが現状である。

中国製品は依然として、すべてが安心安全とは、決して言えないのである。

それでも中国製品は、とにかく桁外れに安い。販売価格やコストを意識するあまり、なり振りかまわず日本の業者は我先にと製品そのものの輸入に走ってしまっている。

中国では経済成長にともなって人件費が上昇しているが、今も昔も世界が中国に対して求めるのは『安さ』である。昔は一目で粗悪品と分かる代物であったが、今は見た目では判別のつかない部分(安全面等)を軽視することによって、人件費が上昇した現在でも安価な商品を提供し続ける事を可能にしているのではないだろうか?

残留ホルムアルデヒド、製品から放射能検出、燃えてしまう難燃繊維、これらは製品をパッと見ただけでは判別がつかない。

 

2012年末、中国製の紙オムツ(メリーズ)を使った乳児のお尻がかぶれたというニュースが中国国内で話題になり、『やはり中国製は信用できない。日本製のオムツが欲しい!』との声が富裕層を中心に高まり、現在に至っても花王のおむつの品薄が続いているらしい。

花王は中国国内にも営業拠点を持っていて、メリーズを販売している。しかし中国人は中国国内で製造されているメリーズは「日本製よりも劣る」と思い込んでいるらしく、中国国内製よりも高い日本を買い漁っているそうだ。

このことから、中国国民ですら中国製品を信用していないのが分かる。

 

と、批判的な事を書いてしまったが、「価格」は企業や消費者が商品を選ぶ際の重要な選択肢であることは間違いない。そのため企業はコスト削減の必要に迫られ、それを実行する為には海外工場は不可欠であり、当社も一部の製品において中国工場を使っている。

しかし中国製品をそのまま輸入し販売するのではなく、当社は国内の原料メーカーから原料を購入し、国内で紡績をし、国内で染めをし、その出来上がった材料を中国へと移動し、そこで織りと縫製を行い、それをまた日本へ移動させ、最後の検品と梱包は、国内で行うのである。

つまり「織り」と「縫製」という目で見て良し悪しを判断出来る工程しか外国には任せないのである。

 

最後の工程である検品と梱包を一枚一枚100%国内で行うことによって、手抜きや、すり替えの有無、品質の違うものが混ざってないかなど、ある程度、防波堤の役割を果たす事は可能だが、更なるコストダウンの為にそれらをも中国に任せてしまうと、性善説に基づき、ほんの数枚を抜き出して検査するぐらいの心細い方法でしか、確認のしようがないのである。

ちなみに不安症の私個人としては、中国製品に性善説は通用しないのではないかと考えている。

 

多くの企業や消費者は、「価格だけ」を選択肢に上げているのではなく、品質と価格の両方を十分に比較検討したうえで、コストパフォーマンスに優れた安心なものを買いたいと考えているはずだ。

安いだけで、品質や安全が伴わない商品はコストパフォーマンスが良いとは言わない。

価格が期待に応えられても、品質が、消費者の期待に応えられないものであれば、企業の信頼は失墜してしまい、次の注文はなくなるだろう。

価格は重要な選択肢ではあるが、「安いだけ」の商品を扱っては企業の未来は無いのである。

中国から「検品梱包済みの完成品」を仕入れるのが、最もコストダウン出来る方法である。

しかしそれは安心安全面を、ある程度犠牲にすることだ。

安心・安全を確保するには手間と時間がかかる。

だから、ある線までのコストが絶対に必要で、それ以上コストを下げようとすれば、見た目では判断のつかない安全安心の部分でコスト削減するしかないのだ。

会社を末永く存続させて行くためには、「安さ」よりも「品質と企業への信頼」が重要だと私は考えている。また安心安全が伴ってこそ、ようやく初めてコストパフォーマンスの良い商品と言えると考えている。

安いだけの商品に、お客様の満足は無い。

だから当社は中国から「完成品」を輸入しない!のである。

 

「安さ」と「安心安全」を同時に求めようとすると、色々なところに無理が発生する。

「とにかく安ければ良い!」という需要が拡大し、「安かろう悪かろう」の輸入製品の大量流入が続くと、真面目に物づくりをしている国内産業の成長が阻害され、国の経済基盤や今後の発展にまで弊害を生み出すのではないかと私は懸念している。