私は掃除魔である。社内でも先頭を切って掃除をする。特にトイレと玄関を念入りに掃除することを心掛けている。(トイレ掃除を侮ることなかれ)
私は大きい図体に似合わず、案外に神経質な部分もあるので、テーブルの上の物の向きも気になるし、誰かが物を引きずって移動している場面などを見てしまえば、注意せずにいられない。
思い出してみれば、私のこの性質は、どうやら祖母の影響がある。
祖母は、丸竹コーポレーションの前身である呉服屋「初代立花屋」の経営者で、神経質なほど綺麗好きであった。
井戸から釣瓶で汲んだ水を一日に何度も店の軒先に撒いていたのをよく覚えている。
「幸福や金運を呼ぶ神様は綺麗なところにしか降りてこないし、汚い所には貧乏神しか降りてこない。お客様も一緒のこと。清潔にしてるお店には良いお客様が入って来てくれるけど、汚い店に入って来るのは押し売りか泥棒くらいや。」
「神様もお客様も、まず見るのは玄関や。玄関が汚かったら、入って来てくれへんよ。」などと祖母はよく私に話してくれた。
「生きてたら、良いことも悪いこともある。なんでそうなるかと言うと、神様が家に住んでる時と居ない時とあるからや。神様の居てない期間は、あんまりええ事ない。神様は綺麗好きやから、家が汚くなってきたら居心地が悪くなって出て行ってしまう。だから神様に気持ち良く過ごしてもらう為に、いつも清潔にして、神様!家に来てくれてありがとうございますって、おもてなしせなアカンよ。」
祖母は子供の私が理解しやすいように、そのように話してくれたが、目に見えない神様をおもてなしする気持ちで、いつでも清潔にしていれば、それは結果的に、お客様をおもてなしすることに繋がり、お客様が気持ちよく過ごしてくれれば、その後イイことも起きよう、という事だったと思う。
先日、当社へ東京からのお客さまがあった。
お得意様の仕入れ部長が定年退職されることになり、新任の仕入れ部長との引き継ぎに来られたのである。
本来なら当社よりお伺いするべきところなのを、わざわざ飛行機に乗って大阪までお越しいただけるのだから、まさに恐縮の極みである。
私は感謝の気持ちを表したくて、いつもよりも念入りに社内全体を掃除し、特に玄関とトイレは磨き上げて、心ばかりの手土産を準備して、ご来社の時間を待った。
遠くからわざわざ来社して下さるお客様に、少しでも気持ち良く過ごして頂きたいという私なりの「お・も・て・な・し」である。