私が診療介護サービス付き高齢者専用賃貸住宅(以下 サ高住)を事業として展開しようと思ったきっかけを今回は少し書こうと思う。
ところで当社のメイン事業は「繊維」と「土木資材」である。
しかし経営の安定、企業の成長、リスク分散の為には、メインの柱をあと一つ増やして三本柱にし、大きな揺れに襲われても崩れない強固な骨組みを作りたいと常々考えていた。
そんなおり、十数年ほど前に、とある経済雑誌に『このままの人口推移で進んで行くならば、少子高齢化に拍車がかかり2030年を過ぎる頃には人口の約3分の1が65歳以上の高齢者になると推計される。』と書かれてあったのを目にした。
私自身も2030年には68歳である。その当時この記事を読んで、少なからず衝撃を覚えた。
他業種に参入するのならば、人口密度が最も高い世代向けの商品もしくはサービスの分野にするべきだとの考えはあったものの、この時はまだ具体的なアイディアは浮かばなかった。
その後、新規事業に関心を寄せつつも進展は無く、本業に特化し専門性を高めることで、生き残りを模索しながら事業を展開して行った。
そして今から8年ほど前、テレビの報道で初めて「サ高住」の存在を知り、強く心が惹かれた。
家族の手を煩わすことなく、お年寄りが安心した暮らしをおくれる賃貸住宅とサービスの提供、これはまさに現代そしてこれから先の時代のニーズに沿う事業である。
それに地元に住み続けたいと願うお年寄りは多いはず。そこで初代立花屋から数えると61年間、地元に根をおろさせて頂いている当社が、地元のお年寄りに向けてサービスを提供させて頂こうと考えた。
しかし新規事業に進出するにはタイミングと情報の量が重要である。
この時点では人・モノ・金・情報などの経営資源を考慮すると、時期尚早だと判断し、時期が来るまではリサーチ期間とする事にした。
空き時間を見つけて大阪府内のサ高住を視察し、話を聞いたりする中で、高齢者向け施設で大変なものの一つが、排泄などで汚れるリネン関係であることを知った。
リネン類、特に布団の丸洗いなら当社の得意中の得意である。もし当社が「サ高住」の事業を始めたら、お年よりの方々に、いつでも清潔な良い布団で寝てもらう事を約束出来る。
そのように本業との相乗効果が期待出来る部分もある事が分かった。
新規事業進出には既存の事業が好調な時に進出する「前向きな進出」と、本業不振の打開策として進出する「後ろ向きな進出」があるが、後者の場合だと焦りが出るし、後にひけないし、軌道に乗せるまでに体力が切れてしまう場合もある。
前向きな進出の場合でも、業界内の法律や制度など規制緩和、規制強化の流れ、経営資源(人・モノ・金・情報)を考慮しなければならない。
現状を分析し、「時期が来た」と私が判断したのが、今から2年ほど前である。
ちょうどそのタイミングで土地購入の話が来て、地元泉南の土地を購入することが出来た。また幸運にも、医療福祉に約30年携わり、豊富なノウハウと経験を持った専門家と再会する縁に恵まれた。
長時間に渡る面談・相談を何度も繰り返すうちに、志が同じであることに互いに理解を深め、方向性の摺合せを重ねた結果、執行役員として参画してもらうことになった。
また長年当社ISOコンサルティング業務に携わりご指導頂いている先生の参画と事業連携が実現した。
以上が現在まで流れである。
新規事業の構想を持ってから、実行に移す良いタイミングが来るまでが長かったが、現在はスピードと最大限のレスポンスを持って準備進行中である。
ここからは理念的な話になるのだが、当社の企業理念の一つに『社会から歓迎される会社でなければならない』というものがある。
皆から愛され歓迎してほしいー!というよりは、私は会社を長く存続させたいと考えているし、お金儲けだけが目的の会社が社会に歓迎されるはずがなく、そのような会社が長年に渡り存続出来るはずもないので、結果「三方良し」が信条となった。
現在、泉南市の高齢者はどんどん増加して行っているのに、「サ高住」はたった1件だけなのである。
現在準備を進めている「サ高住」は、年金だけでも入れるような低料金の部屋の設定も予定している。
費用面が理由で、これまで介護を受けることができなかった方々や自宅介護で苦労されている方々に利用して頂き、喜んで頂きたいと考えている。
また地域の活力が失われてしまえば、企業の繁栄はないと私は考えている。
「サ高住」を開始すれば相当な数の雇用が地元で発生する。
また常日頃よりそうしているが、「サ高住」の建設に際しても地元大阪の業者さんにも参加してもらっている。
企業と地域が密着することにより、少しでも地域が活気づいてくれれば、それは巡り巡っていずれは自社の利益となると思うのだ。
当社の新規事業が福祉関係という事で驚かれる方も多いのだが、実は当社は福祉と元より関連が深い。
力不足であるが私は、府立砂川厚生福祉センターの雇用促進協力会の役員をさせて頂いてたし、当社は1995年から障がい者の雇用を開始し、現在は5名の障がい者(身体・知的・精神)の方が勤務してくれている。
障害者の方たちと共に働いているこの経験ノウハウは、「サ高住」に活かせる部分が多い。
サ高住は、当社の3本目の柱としての事業でもあるが、地域への貢献という側面も持っている。ここから先は、読み流して頂いたら結構なのだが、私は「人のためになる事なら、天にも歓迎されるはず」と常々思っている。
サ高住を建てる土地を買えたのも実は奇跡的な展開であったし、さまざまな協力者の方や支援者の方たちとの巡り合せや、福祉の専門家との再会も幸運であった。
なんだかまるで天が「世の中の役に立たせてもらえ!」と、私の背中を押してくれているような気がするのである。