天理高校柔道部には、卒業後に世界選手権覇者や金メダリストになる生徒が沢山いた。
そのような生徒達は優れた才能やセンスを生まれつき兼ね備えている為、新しい技をほんの数日で習得出来てしまう。
それに比べて、私は技の習得が遅い方であった。
なかなか習得できない私を見かねて、ある日、松本薫コーチ(当時5段)から、「学校の授業中に椅子に座ったままでも柔道の練習はできる。」
「お前は左利きだから、まず左足を指先までまっすぐ延ばして、つま先を全力で下向きに曲げる。」
「そして右足も同じくまっすぐ延ばして、今度はつま先を上向きに全力で曲げる。」
「歩くときは、つま先に力を込めながら足を引きずるように歩く」
「この3点を毎日続けてみろ」と教えてもらった。
つまりこの足の形は、「大外刈り」の基本動作である。
早速、翌日から授業中に教わったようにしてみると、すぐに足が疲労のため攣りそうになって長く続かないわ、くたびれて授業に身が入らないわで・・・いや元々授業には身を入れてなかったので、まぁそれはいいとして・・・、先生に言われたような歩き方をすると、何度もつまずき転んでしまうわ、柔道を知らない友人達からは、ふざけていると思われて笑われるわで、散々であった。
けれど先生のアドバイスを信じていた私は、それを毎日続けた。
1か月を超える頃には、私のおかしな歩き方を笑う者が無くなり、気が付けば椅子に座ると無意識に足がその形になっていた。
この頃になると練習で「大外刈り」が少し掛かるようになってきた。
それまでは「払い腰」と「内また」だけでやってきた柔道だったが、3年生になると「大外刈り」が私の得意技の1つになった。
人が何か新しい事を習得しようとする場合、慣れてない事に挑戦をする訳だから苦しい。
けれど、苦しい、しんどいと思いながらも、一日一日と挑戦を繰り返していると、いつしかそれは習慣に変わり、特別な行為ではなくて、日常の行為へと変わり、ふと気付いた時には苦しさは薄れ、ある時、習得出来ている自分に気付く。
そういう事の積み重ねで人はステップアップして行くのだと思うが、新しい事を習得出来ない人は、その才能が無いのではなく、習慣化する前に諦めてしまったり、飽きてしまったりしているのではないだろうか?
自分にはハードルが高いと思うような困難な事の習得や苦手な事でも、習慣化させる事により、いつしか苦しさは薄れ、そうして諦めず続けることで、人間たいていの事は出来るようになる!と私は信じている。