先日、NHKの「ヒローたちの名勝負」という番組で、講道館柔道「全日本9連覇・ロス五輪金メダリスト」の山下泰裕先生と、「ソウル五輪金メダリスト」斉藤仁先生の数年間に渡る戦いの物語が再放送された。
両先生の凄まじいまでの諦めない執念、そして柔道への情熱が見てとれる素晴らしい物語であった。
その番組の中で、山下先生は斉藤先生が居なかったら、もっと早く引退していたろうし、斉藤先生は山下先生が居なかったらあそこまで強くなっていなかった、と語られていた。
お二人は、切磋琢磨しながら競い合い、また高め合える最高のライバルで有ったのだろう。
とは言ってもライバルが四六時中、隣に居て、一緒に練習して、いつも競い合えるわけではない。
ライバルと戦うのは本番の試合でだけだし、ライバルと競い合うとは言っても、一緒に練習しているわけじゃないから、アイツが10回なら俺は15回!という風にもいかない。
実際にはライバルと顔と顔を合わせて競い合っているのではなく、ライバルの姿を心に写し込み、自分の心の中に居るライバルと戦う。
練習で疲れて、「今日は、もう終わりにしよう」と思った時に、ライバルの顔を思い出し、「やっぱりあと10回やろう」と思いなおす、もうしんどくて立てないと思った時に、ライバルを思い出して立ち上がる。
結局それはライバルと戦っているというより、もうやめようと言う弱い自分と、まだまだやるぞ!負けたくない!という強い自分との戦いなのではないだろうか?
柔道の歌の一説に♪人に勝つより自分に勝てと~言われた言葉が胸に染む~♪とあるが、まさに両先生は、ライバルに勝ったのではなく、最終的には自分自身に勝ったのであろうと感じた。
ソウルオリンピック。
期待されていた柔道は最終日まで金メダルがゼロの総崩れ。
何が何でも金メダルを取らなければならないという凄まじい重圧の中、最後の望みを託されたのが斉藤先生だった。
準決勝、対戦相手は地元韓国の選手。
日韓両国の地鳴りのような大歓声の中、斉藤先生得意の投げ技が決まらず苦しい戦いが続く。
相手選手が帯を結び直す間にも、興奮した観客たちの恐ろしいほどの大歓声が響き続ける。
そんな中、斉藤先生が何かを探すように視線を動かす。
実況席に座る山下先生を捕らえると、少しの間、視線を送る。
うなずく山下先生。
実況アナが「今斉藤がチラッとこちらを見ましたか!?山下さんの方を見たんじゃないですか?!」と驚く。
ライバルが単なる敵ならば、こんなシーンは見られなかったであろう。
ライバルが居るから自分を磨き高める事が出来る。ライバルが居るから自分自身に勝つ事が出来る。
真のライバルとは、もうしんどくて立てないと思った時に、その顔を思い出せば、立ち上がらせてくれる存在なのだろう。
そして自分の苦しさを誰よりも分かってくれる一番の理解者なのだろう。
私はこの番組を観て、現役時代の感動が蘇ると共に、獅子奮迅して目標達成する喜びを改めて思い出させてもらえ、自分自身を鼓舞する良い刺激になった。