ソチオリンピックが閉幕した。
4年に一度の大会に、肉体的、精神的なピークを合わせるのは、いかに難しいことだろうと改めて思った。
オリンピックと並べるのは大変失礼だが、甲子園にしろ、インターハイにしろ、全国レベルの大きな大会に出場出来るのは、大抵は3年生になってからだ。だから高校生活の3年を掛けて、その大会を目標に頑張るのだが、そこに3年間のピークを合わせるのは難しい。
しかし天理高校には、モチベーションのピークを、最大目標の全国大会当日に合わせることにおいて天才的な手腕を持つ監督が居た。
このブログに度々登場している故・加藤秀雄先生である。
ちなみに先生のことを簡単に説明しておくと、万年「怒号の鬼」なのである。
決して褒めない!試合で勝っても、勝ち方が悪いと怒鳴りつけられ「正座で長い説教」である。年がら年中、明けても暮れても叱られ続けたので、卒業して何十年も経って、こんなオヤジになってからでも、時折OB会等で先生の前に出ると、アワアワとしてしまい言葉が出なくなっていた程である。
その先生が全国大会の一ヶ月ほど前に、初めて褒めて下さった。
「おまえら!最近、筋力が増してきたようだな。練習を頑張っている成果だな。」と。
私は耳を疑って、逆に怖くなってしまった。
また翌週、「練習の度に技が切れるようになってきているぞ!」と褒めて下さった。
入学して以来これまで一度も褒められた事がないのに、2週も連続で褒められると、さすがに私達もオカシイと感じ、「試合が近いので俺らをおだてているのじゃないか?」と怪しんだ。
また翌週は、練習試合の様子を見て、「いかった!いかった!(良かったの意味)」と先生の出身地である北海道弁で何度も褒めてくださった。
普段、先生は関西弁だ。それなのに思わず北海道弁が出てしまったぐらいだから、おだてではなく本当に俺たちは、かなり良い調子に仕上がっているんじゃないだろうか?と、皆は先生の言葉を信じるようになった。
試合の一週間前になると「お前達を見ていると練習の度に強くなっているような気がするな!羨ましいぐらいだ!」とベタ褒めされ、もう皆が加藤先生の言葉に酔いしれるようになっていた。
「これまでにないぐらい今が一番強くなっている!」そう信じ込む事で、精神面も強くいられた。「鬼の加藤先生が褒めるぐらい俺たちは強くなったのだから、負けるはずがない」という自信満々な気持ちで挑んだ大会は、最高の結果を残せた。
大会翌日。
昨日までと同じように意気揚々と練習に臨んでいると、怒号が飛んで来た。次々と飛ぶ怒涛の怒号。まるで魔法が解けたかのように、先生はまた元通りの鬼監督へと戻っていた。
昨日までの褒め称えは何だったのだ!と私たちは脳天杭打ちを食らったような気分になって唖然としてしまったが、「加藤秀雄劇場」の中で最高潮に踊らされていた事に気付いて苦笑いをした。
その時の事を今、経営者の視点で思い返すと、トップの人間の言動は、こんなにもモチベーションと結果に影響を及ぼすのだと驚く。
経営者の言葉で、社員のモチベーションを上げることも出来れば、逆に一気に下げてしまう可能性もある。そう考えるとトップに立つ者の発言の責任は非常に大きく、身が引き締まる。