8割の力で勝負する

先般、長野五輪のスピードスケート男子で金メダルを取った清水宏保さんの記事を新聞で見かけた。その中の清水さんの語録で、「大舞台で勝つには8割の力で勝負することが大切になる」とあった。
「全力で頑張ります」という言葉が多用される中で、「8割」という数字に興味を引かれた。

実は私も同じような趣旨の事を、学生時代に天理高校柔道部監督 野村基次先生(当時5段、現8段 オリンピック柔道金メダル3連覇の野村忠宏選手の父)から教わった。
たまたま1年生の時のクラスの担任も体育の授業も野村先生だったので、結果として柔道部の練習以外の時間にもたくさん話す機会に恵まれ、多くの事を教えて頂いた。
野村先生曰く「本番で実力の100%を出すのは難しい。せいぜい実力の80%であろう。それならば初めから実力の80%で勝負をすると考え、残りの20%は余力として突発的なアクシデントや変化に対応する為に残せばいい。」と仰った。
36年前の話なので言い回しは変わってしまっていると思うが、言わんとしていることは清水宏保さんも野村先生も、きっと同じだろう。

 

「8割の力で勝負する」
これは事業計画や日々の業務にも通ずる。
■例えば、会社の余力。
社運を掛け10割のパワーを使って取り組んだ事業計画が失敗した時には、もう目も当てられない。しかし余力があれば、計画を変更することも、立て直すことも出来る。
■例えば、精神力・体力の余力。
仕事とは一生に近い年月続けるものであるが故、ある一時期にだけ奮闘して、その後燃え尽きては困る。40年50年とコンスタントに戦えるように余力を残しておく必要がある。
■例えば頭の中の余力。
熱意を持って仕事に取り組む事はもちろん大切だが、猪突猛進した結果、木を見て森を見ずの間違った方向に進んでしまう事もありえる。熱中している時であっても、頭の隅では冷静な抑え部分を保っておかなければならない。

 

ここで誤解して欲しくないのが、「8割の力で戦う」という事は、2割手を抜いて良いという事ではなく、本番で8割の力しか出せなくても勝てるように自身の分母(余力)を増やせという事なのである。

 

ところでビジネスの本番とは何だろうか?
プレゼンだったり、重要な会議だったり、大切な方の接待だったり、色々とあるだろうが、緊張もあり本番で100%の実力を出せる人というのは、なかなか居ないだろう。
しかし、「実力の80%しか出せない」ことを前提にして入念に準備をすれば、もし100%の力が奇跡的に出れば大満足の結果を得られるだろうし、80%の力しか出せなくても想定どおりだ。
自分の分母を増やすには大きな努力が必要だが、分母が増えれば本番で10割の力が発揮出来なくても、勝つことが出来るのだ。
それはどんなに心強く、気持ちに余裕を与えてくれることだろう。