お節介な人ほど有難い

約30年に渡り事業をさせて頂いてきた中で、特別思い出深い営業マンがいる。
「仕事に関して言えば、お節介な人ほど有難い存在なのだ」と、私が思い至るようになったきっかけの人だ。

25年ほど前だろうか。
私が駆け出しの社長だった頃、その人もまた入社まもない駆け出しの営業マンだった。
インターネットなどまだ無い時代である。
例えば仕様書やパンフレットなどを作成するにしても、外注する資金は当時の我が社にはなく、素人同然の私一人の構成で、ワープロとコピー機を使い作成し、一社一社に郵送していた。現在の何倍もの時間と労力をかけた、まさに「手作り」の資料だった。

そんな資料を私が発信する度に、例の営業マンはすぐさま電話を掛けて来た。
「社長!また間違ってるで!!」と。
数度の話ではない。
何回×100も電話を掛けて来るのである。
それは誤字脱字や表現の間違い、見解の相違など、過去に発行したパンフレットに至るまで何かを発見する度に、電話を掛けて来てご指摘を下さるのである。
電話が鳴るたびに「またあの人か!?」と思わず身構えてしまうほどである。
誰も気付かないぐらいの小さな間違いをわざわざ連絡して来て「ほんまにお節介な人や」と迷惑に思っていた。
それどころか、もしかしてミスを指摘するのが趣味なんじゃないのか?!と疑ってすらいた。
かと言って、指摘された箇所をそのまま放置するのは、彼から逃げたような、そして彼に負けたような気がするから絶対に嫌であった。
彼から指摘の電話があると、私はほとんど戦いに挑むような気持ちになりながら、その日のうちに夜を徹して資料を作り直す。
そんな事を幾度と無く続けていたのである。
だからその営業マンに対して「なにくそ!!負けるものか」と執念を燃やしても、感謝の気持ちはどうやってみても持てずにいた。

 

ところがである。
彼は、次々と当社の商品を売ってくれるのである。
そして数年経たずして、彼は当社の製品のトップクラスのバイヤーとなった。
彼は当社が発信する資料を徹底的に精読し、製品を完璧に把握していた。
だから彼はお客様のどんな質問においても、即座に正確に回答することができた。
そうして次々と信頼を得て、おのずと売り上げも向上して行ったのである。

なぜ気付かなかったのだろう!彼は私の手作り資料を誰よりも熱心に読み込み、真摯に向き合ってくれていたのだ。そして中途半端なものをお客様の前に出したくないというプロフェッショナルな想いから、何度も何度も私に指摘を続けていたのだ!
それに気付いた時、私は初めて心の底から彼に感謝をし、彼の行為を迷惑だと思っていた自分を恥じた。

 

出会った頃は駆け出しの営業マンだった彼は、昇進を重ね現在は役員となられた。

当社の有力なお取引先である。
今でも年に1、2度、お話をさせて頂く。
いつも会話の最後はこの話になり「私の訂正要求や指摘もかなりしつこかったけど、食い下がってすぐに更新してくるあんたも、しつこかったなぁ!」と昔を思い出して笑い合うのである。